MBOとEBO~従業員によるM&A

2007年にNHKで放送されたTVドラマ「ハゲタカ」をご存じだろうか。
大森南朋主演のファンドマネージャーを題材にした経済ドラマで、映画化もされて当時社会現象にもなった作品である。

このドラマの後半で、電機メーカーの一部門を従業員が買い受けるというシーンが出てくる。
外資企業による買収が進む中、その部門の人員がリストラされてしまうことを避けるため、ある従業員(職人のリーダー)がトップに立って投資ファンドにお金を出してもらい、その部門ごと買い取ってしまうのだ。

このように、従業員が会社や事業を買い取ることを「EBO(エンプロイー・バイアウト=従業員による買収)」と呼ぶ。
このEBOは、マネージャー(部門長)が会社や事業を買い取る「MBO(マネジメント・バイアウト=経営陣による買収)」の一形態で、中小企業のM&Aでもたまに見受けられる手法である。

サラリーマンでもM&Aはできるのか

このEBOとは、従業員が会社や事業部門を買収することなので、理屈で言えば一般のサラリーマンが自分の所属する部署を分離・独立してEBOを実行することは可能だ。

だが実際は、会社(取締役会や株主総会)の同意が必要なのはもちろん、赤字を垂れ流して大変な部署ならともかく、収益を出している部署を買い取るにはそれなりの資金力や信用力が必要になるため、給与所得者が独自に資金を調達してEBOを実行するというのは現実的ではない

ところが、旧来より日本ではEBOが一般的に行われていたといったら驚くだろうか。長年勤めてきた使用人に新しい店舗を任せる、所謂「のれん分け」がそれである。

飲食店舗やサービス業では一般的な独立手法だが、これもれっきとしたEBOなのだ(厳密にはEBOにはいくつかのパターンがあるため、「のれん分け」はEBOの一形態と考えるのが正しい)。
親会社(本家)が承認した上で、資金面や信用面での支援を行って、分離・独立後も経営が安定するように入りし、継続的な取引関係を維持するのが特徴といえる。

資金がなくてもM&Aできるのか

サラリーマンであってもEBOのの手法を使えば会社や事業を買い取ることができるが、通常は買い取るための資金がないため実行が困難であることは前述した。しかし、「ハゲタカ」で描かれた事業部門の買収のように、その会社や事業が魅力的でかなりの収益が見込め、且つ会社が売却に同意している場合はどうかというと、実はお金の出し手が存在する。

それが所謂、投資ファンドで、特にEBOやMBOへ投資するファンドは「MBOファンド」と呼ばれている。
自己資金がわずかでも、MBOファンドから資金提供を得ることで、数億円から数十億円、またはそれ以上のM&Aが可能となるのだ。

ファンドからお金を出してもらえたら、とりあえず一安心といきたいところだが、実はこれからが大変だ。当然だが、MBOファンドもお金を出す以上、収益を得なければならない。元々ファンドは「想定利回り」を決めているので、収益が上がっている事業であれば配当や利息の形でその利回りを上回るように資金回収を要求する。

さらに、ファンドには通常「償還期間」が決められていて、およそ5~7年で元金を回収する。つまり、多額の資金を出してもらっても、ファンドの償還期間内に全額返済(株式の場合は買収)、または新たな資金の出し手を見つける必要があるのだ(会社が潰れていたければ)。

お金が自社名義の銀行口座にたくさん入っていても、結局は自分の金ではないのである。

VC(ベンチャー・キャピタル)とは

余談だが、ベンチャー会社に投資を行う「VC(ベンチャー・キャピタル)」も基本的な仕組みは同じである。
名前の通りベンチャー会社に投資をするのだが、ベンチャー会社を立ち上げて、自分の事業モデルに酔いしれている若い経営者に対して多額の資金を提供すると、不幸な結果になることがある。

以前であったITシステム系ベンチャーの社長は、秀逸な(実際は〝秀逸に見える”だったが)事業計画書を駆使して多くのVCから数億円の資金を提供してもらっていたが、事業がいつまでたっても赤字なのに、都心の一等地におしゃれな事務所を開いて、数千万円もするフェラーリを乗り回していた。
ほどなくして、ぱたりと連絡が取れなくなり、会社は自己破産、そしていまだに行方知れずである。

そもそも、経営者としての資質に大きな問題があったのは事実だが、事業計画も十分に練れていない会社に資金を提供するVCにも大きな問題があったと言えるだろう。

このように、資金を出してもらえるからと言って、EBOやMBOを簡単に進められるわけではない。
しかしながら、会社や事業の生き残り戦略にファンドが活用できるということは、是非覚えておいて頂きたい。

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