会社の成長にM&Aを活用する~攻めのM&Aとは~

M&Aは営業課題を解決する有効なツールだということは前回で説明したが、その活用法によっては、戦うための「剣(=攻めのM&A)」にもなるし、会社を守るための「盾(=守りのM&A)」にもなる。
そこで今回は、攻めのM&Aについて説明したい。

(1)店舗再生M&Aで成長する

飲食店の居抜きによるM&A

M&Aを事業を伸ばすための「攻めの戦略」として活用する場合、同業他社の取り込みや、人材の確保自社にない顧客網の開拓など、さまざまなケースが考えられる。
同業他社の取り込みは、事業内容は業界状況を理解しているため、まったく知らない分野への進出に比較すれば取り組みやすいM&Aといえるが、具体的に実行すようとすると、いったいどのようにやればいいのか二の足を踏んでしまうことも多いだろう。
ここでは、飲食店を例にとり、店舗の拡大にM&Aの手法を利用したケースを紹介する。

例えば、みなさんがレストランのオーナーだったとして、新店舗をオープンするとなったらどうするだろうか。
通常はターゲットエリアの空き店舗やテナント募集情報を集めて、新規店舗としてオープンすることを考えるだろう。

しかし、空調工事や内装工事などを考えると、ゼロからの初期投資は結構コストも時間もかかるため、投資回収に時間がかかってしまう。

そこで有効な手段が「既存店舗の再利用」だ。
撤退や移転を考えている店舗を、そのまま(居抜き)で安く買い受けることができれば、初期投資が大幅に削減できる上、オープンまでの時間も短縮することができる。
さらに、場合によってはそのまま従業員やアルバイトも継続雇用できるというメリットもあるのだ。

いつも行っていたレストランがある日違う名前のレストランになっていた、という経験はないだろうか。
以前、私の自宅の近くにAという焼肉チェーンがあったが、閉店後、しばらく経つと某ハンバーグステーキチェーン店に変わっていたことがあった。
壁紙などが新しくなっていた以外、店内はほとんど以前と同じレイアウトだったが、業態が違うため新鮮なイメージになっていたのには驚かされた。

そのハンバーグチェーン店は、当時、主にロードサイドの居抜き物件を中心に出店して急成長をしていた外食チェーンだったが、元々経営不振に陥った飲食店の再生を行っていたこともあり、「居抜き物件M&A」を上手に活用して成長した一例だ。

このようにオーナーが変わってメニューも業態も変わったが、店内の基本レイアウトは同じというケースは最近よく見かけるが、これらもれっきとしたM&Aなのである(厳密には「居抜き譲渡」という形態で、事業そのものを譲り受ける「事業譲渡」とは違うため、疑似M&Aとも言える)。

(2)同業他社M&Aでシナジーを得る

事業を成長させるための“攻めの戦略”として、M&Aを活用する場合、同業他社の取り込みや人材確保、自社にない顧客網の開拓など、さまざまなケースが考えられる。
特に、同業他社のM&Aは、これまで培ったノウハウやネットワーク、社内人材などすべてが活用できるため、自社の既存ビジネスを拡大するための手段として相乗効果(シナジー)が出やすく、極めて有効な手段と言える。

同業他社M&Aが活発な調剤薬局

従来からM&Aが活発だった業界として「調剤薬局」業界がある。
同業界は、診療報酬改定の影響で業績を落とす企業が多い中、(株)アインホールディングス、日本調剤(株)の2社は前年度より増収しており(2019年8月時点)、ともにM&Aによる規模と業界シェアを拡大してきた。

病院に行って処方箋を受け取った時、病院の出口から一番近い調剤薬局を選びがちだが、調剤薬局にとってまさにこの立地がとても重要で、病院の出口から近いほど有利だ。

そして、病院(クリニック)の規模で患者数を決まるので、一病院(クリニック)当たりの調剤薬局の数も概ね決まっていると言われており、より出口に近い場所に自社の調剤薬局を出せるかどうかが戦略上大きな意味を持つ。
そのため、この「場所取り合戦」こそが業界のシェアを決めているのだ。

つまり、好立地(出口にできるだけ近い場所)、そして薬や薬剤師の配置しやすいエリアの店舗をM&Aにより複数おさえていくことで、シナジーが得られる仕組みとなっているのだ。

上流業種や下流業種への多角化は要注意

一方、上流業種や下流業種への進出を狙ったM&Aには注意が必要である。例えば、商社が製造業に進出するケースをよく見かけるが、実際には失敗していることも多い。

商社がメーカーを買収した場合を例にあげる。

通常、商社は取り扱い口銭(マージン)で利益を得るのだが、仕入先であるメーカーを取り込めば、その分の利益も自社に取り込むことができる。
いわゆる「バリューチェーン(価値連鎖)」の下流が、上流を取り込む形のM&Aだが、その結果、商社からメーカー経験のない管理職を送り込んでしまうと、モノ作りの現場と十分な統合効果が得られず、結果的に当初目論んでいた収益に結びつかなったり、経営がうまくいかずに再度手放す、というケースもあるようだ。

次に、大手家電メーカーだが、販社や物流会社を傘下に持ってグループ展開する形態が日本ではよくみられるが、このような企業グループはメーカー製品の商流生成過程で必要に応じて形成されたもので、M&Aにより事後的に形成されたものではない。

この分野ではどちらかというと同業他社の買収が多く、実際その方が成功しているケースも多いとみられる。

同業への展開ではなく、自社の属する業種から見た上流業種や下流業種へのM&Aを仕掛ていく場合は、シナジーを十分に検討した上で実行すべきであり、「餅は餅屋」ということを肝に銘じつつ、統合効果を得るために相応の時間を要することを念頭に置いておく必要があるのだ。

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