『M&Aの現場から⑤「こういうM&Aは失敗する~僕たちの失敗:その2~」

皆さんこんにちは!オプティアスの萩原です。
さて前回(3月号)は「こういうM&Aは失敗する~僕たちの失敗:その1~」として、M&Aが成就しなかった事例についてお話しました。成就前の段階は、所謂「婚約したけどやっぱりやめた」という婚約破棄のようなもので、双方とも精神的・経済的・時間的なダメージを食らいますが、まだ結婚前なのでダメージも限定的です。より大変なのは「結婚したけど失敗した」、すなわち「M&Aを実行したが思った通りの成果が得られなかった」というケースです。
ご想像の通り、M&Aを実行するとなると投資(買収対価、買収後の追加投資、運転資金等の工面)だけでなく人的リソースの再配分(被買収会社への人材投入、本社サイドのマネジメント体制整備)や事業構造の再編(営業戦略や事業戦略の変更、計画修正と実行)といった対応が必要となるため、上手くいかなくなった場合のダメージは甚大で、場合によっては本体の経営に深刻な影響を及ぼす可能性もあります。
以前、私が手掛けたM&A案件でのことです。
某システム開発会社(A社:年商約50億円)から新規事業として「健康ビジネス関連のM&A案件を探してほしい」と要請を受けた際、丁度ウォーターサーバー会社(B社:年商5億円)の社長から「事業承継で第三者に会社を譲りたい」と相談を受けていたのを思い出してA社に紹介してみたところ、健康志向にピッタリということで「是非進めたい」という話になりました。

A社にとっては全くの新規分野なので、社内に同事業の面倒を見れる人材はいませんでしたが、外部から経営者(C氏)を招聘して対応することにして、B社社長には当面顧問として指導して頂くことで合意譲渡金額も双方の意向を踏まえた金額で納得して頂き、紆余曲折あったものの最終的に譲渡に合意してM&Aもめでたく成立しました。
さてM&Aアドバイザーである我々はM&Aが完了するとどうなるかというと、通常M&A完了時点でお役御免となって案件から離脱します。その後の経営引継ぎに若干関与することもありますが、本格的な統合作業(PMI:Post Merger Integration)には要請が無い限り関与しません(コンサルフィー等々お金も掛かりますので)。
本件でもM&A成立時点で離脱したのですが、その後A社は予定していたC氏をトップに据えて営業体制を一新、みるみる売上を伸ばして数年後には20億円に達するような規模まで成長させたのです。まさに素晴らしい経営センスと営業力と言えますし、その人材を見つけてきてトップに据えたA社の手腕も称賛に値するなと思いました。と、ここまでは大成功事例ですよね?実際私も「これは今後M&Aの成功事例として講演で話せるな(成長させたのは自分じゃないけども!)」と思っていました。
しかし、しばらく経ってA社のM&A担当者に「最近B社はどうですか?」と尋ねると、驚くべきことに、なんと破産することになったとのこと。驚いて経緯を聞いてみたところ、最初こそ順調に経営をしていたC氏ですが、A社から経営の全権を与えられていたこともあり、徐々に独断専行して会社を私物化、挙句の果てに行きつけのクラブのお気に入りの女性を社員にしてしまい、社内も混乱して事業も行き詰ってしまったそうです。

この事例はちょっと極端ですが、新規事業のM&Aをする場合は買収対象の事業について分かっている人材がいないため、どうしてもこのようなマネジメント問題が起こりがちです。中小企業の場合、自社事業のマネジメント人材も不足している状況ですから
新しい事業に投入できる人材を準備できる会社もあまりないと思います。従って、新規事業進出を目的にM&Aをする場合、買収後のマネジメントを任せる人材については、買収対象会社の人材(社長含む)であれ、外部から招へいした人材であれ、最も重要なのは「信頼に足る人物かどうか」だと思います。
もちろん同業他社のM&Aでも、一番大切なことは買収後如何にしっかりと経営を管理していくかということです。どんな案件を検討する場合でも、M&Aの成否を分けるのはこの「買収後のマネジメント」であるということ忘れないようにして下さい。
それではまた次回!!

萩原 直哉(はぎわら なおや)
株式会社オプティアス代表取締役

中小・零細企業を専門としたM&Aアドバイザー。大手信用調査会社の調査員として延べ1,500社を超える企業の経営者と面談した経験を活かした「中小企業経営者・オーナーの目線に立ったM&A」がモットー。

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