M&A現場リポート③自己破産からの復活劇(後)

自己破産、しかし・・・

東日本大震災の甚大な影響は山本織物化学整染にもおよび、4月の売上は前年比4割減にまで落ち込んだ。もう自己破産は不可避な状況となったため、秩父にゆかりのある弁護士に自己破産申し立てを依頼し、スポンサーを見つけられない我々も、いよいよ万策尽き果てる事態に陥った。

伝統ある秩父ちぢみが、ここでその歴史に幕を閉じる・・・。取り引きのある地元の中小零細企業も、無傷ではいられないだろう。山本社長の話では、一部の業者は倒産するかもしれないという。
取引先からも「何とか続けてくれないか」と懇願されたとの報告があり、山本社長からも、どうにか続ける方法はないかと相談された。事実上打つ手はほぼない状況だったが、ダメ元で社員の中に事業を続けたいと思っている人がいるかヒアリングをしたところ、なんと数名が「自分でお金を出してでも是非やりたい」という意思を持っていることが判明したのだ。

絶望の暗闇に、僅かな光が見えた瞬間である。

この時点で自己破産の申請予定は確定、従業員も全員解雇することになっていたが、自己破産をした後すぐに受皿会社を設立し、破産会社から資産を買い取って事業を継続できないか検討を開始した。
破産管財人の弁護士に相談したところ、ある程度の資金を集めて2ヶ月以内に事業を再開すれば、なんとか事業を継続することができる目処がたった。

まず、配送担当だった礒部氏が元従業員を取りまとめて、従業員による出資で新会社を設立。そして、破産会社の染色機械一式を買い取って、取引先に説明を行った。
事業を継続するスキームも固まり、早急に実行することとなった。

自己破産会社からのEBO(エンプロイー・バイアウト=従業員によるM&A)である。

社員の熱意と地元の支援

従業員の出資だけでは足りない資金は、取引先からかき集めることになった。それでも足りない部分は、行きがかり上、弊社が出資した。
よく考えるとここまで無報酬で、更に今後どうなるかわからない新設会社に出資するなど、頭がどうかしていたような気もするが、その当時は「秩父ちぢみの火を消してはいけない。
地域の連鎖倒産を防がねばならん」という気持ちでいっぱいだった。使命感に燃えていたのである。

それでも取引先の理解を得るのは容易ではないし、地域金融機関からの支援が無ければ何もならない。東京にいる我々では十分な支援が困難だし、そもそも我々の社名を出したところで信用されるわけがまい。現地で助けてくれる信用力のあるパートナーが必要不可欠であった。

そんな時に現れた救世主が、秩父商工会議所の中小企業支援課長・黒澤氏だった。

黒澤課長は、これまでの経緯を踏まえて我々の状況を理解して、最も困難と思われた金融機関への交渉を一手に引き受けてくれた。新会社とはいえ、実質的には一回自己破産した企業である。通常は融資なんてどう考えても不可能だと思っていた。

しかし、礒部氏の熱意と黒澤課長の粘り強い交渉、そして地元金融機関の英断により、なんと新規融資が下りたのだ。地元企業が連携して助け合い、そして地元金融機関が必要な資金供給を行い、商工会議所が地元の頑張りをバックアップするためサポートする。規模で言ったらとても小さなM&Aではあったが、地域経済を支えたいという気持ちが繋がり合えば、できないことも可能になるかもしれないという希望を感じた、本当に印象深い案件だった。

ところで、この新設会社である秩父染色は、現在も絶賛営業中である。美談のあとで恐縮だが、未だに零細企業で大変である。しかし、地域の支援を無駄にしないために、礒部社長を筆頭に文字通り汗だくで頑張っている。秩父の伝統工芸である「秩父ちぢみ」に興味がある方、そしてプリントや染色の仕事があれば、是非ご一報頂けると幸いである。

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