
今回のテーマは 事業承継トライアル信託です。
事業承継トライアル信託は、自社が営む事業を後継者や第三者に承継する場合、一気に経営権を譲り渡すのではなく、トライアル期間を設けて、双方で合意できたときに経営権の譲渡をおこなうための仕組みです。会社オーナー(委託者)に経営権(議決権)を手元に残したまま、後継者(受託者)に株式(信託財産)を信託するといったスキームです。
一気に経営権を譲渡し、その後の事業運営がうまくいくのかどうか、不安を抱えずに事業承継を実行できるというメリットがあります。
まだあまり一般的ではない「事業承継トライアル信託」について、一般社団法人日本スモールM&A協会の染川代表理事を招いて「事業承継トライアル信託」の勉強会を開きました。
事業承継トライアルの概要について
事業承継とトライアル信託
事業承継のパターンは一般的に以下の3通りがあります。
1.親族による事業承継(贈与や相続)
2.従業員による事業承継(贈与や相続)
3.第三者による事業承継(経営者交代タイプ:贈与や譲渡、M&Aタイプ:売却)
「事業承継トライアル信託」は、上記のどの事業承継にも活用可能です。
M&Aにも活用できる事業承継トライアル信託
1.M&A専門業者は事業承継のメリットやデメリットなどにフォーカスした「テクニカルな提案」が先行し、当事者はM&A専門業者の進め方に不信感を抱くことも多い。
2.M&Aのマッチングサイトが話題になっているが、「いきなり価格交渉からスタート」で信頼関係の構築が難しい状況。
上記のように、「契約ありき」で話が進んでいくので「本当に引き継いでも大丈夫なのか?」、「もう少しじっくり進めたい」との不安が出てきています。
そこで「トライアル信託」を活用して「トライアル期間でじっくりと見定める」ニーズが発生しています。
トライアル信託を活用したら?
1. 猶予期間・お試し期間を設定できます。
2. 売り手(セルサイド)は、「いったん任せてみて、ダメなら元に戻せる」
3. 買い手(バイサイド)は、「自分自身でデューディリジェンス(買収先企業の価値やリスクを調査)ができる」
民事信託と商事信託(金融機関による)の違い
1.商事信託の受託者(財産の管理や運用)は、金融機関である。民事信託は、事業承継において、委託者は「現オーナー」、受託者は「後継者」となる。
2.商事信託はパッケージ商品が主流であるが、民事信託はフルカスタマイズできる。よってあらゆるケースにおいて自由に仮説検証プロセスが踏める。(懸念材料をいったん棚上げにして進めることもできるし、当初は見えてこなかった部分が見えてくることもある)。
【事業承継トライアル信託のQ&A】
Q:トライアル信託をして契約解除するパターンはどのようなものがありますか?
A:事業承継して任せられないとなった場合の為に、契約解除の条項を作ります。
条項の内容は一番大事な部分です。
例えば、「従業員の過半数が事業承継に反対すると契約解除になる」等。
そうすることで、後継者候補も本腰を入れて頑張るケースも多々あります。
Q:このスキームは、社員の内部昇格による事業承継にも使えますか?
A:使えます。「いっぺんやってみなさい」というテスト期間としても使えます。
Q:信託機能で「株式や土地の所有権が移転する」というのは「仮に移転する」ということですか?
A:所有(運用)は移転するが、権限(指図権・支配権)などは現オーナーに残ります。後継者候補が実子の場合は登記までする場合もあります。
株式の扱いや土地の扱い、信託報酬をどうするのか等の細かい部分は、ケースバイケースで相互に決めて条項に入れます。
Q:トライアル期間中に、後継者候補が業績を上げて株価が上がった場合はどうなるのですか?
A:株式の扱いや土地の扱い、信託報酬をどうするのか等の細かい部分は、ケースバイケースで決めて条項に入れます。
Q:トライアル期間を経て、後継者候補に任せるとなった場合は受益権の売買契約を後継者と結ぶのですか?
A:そうです。そこは、M&A等の通常の譲渡契約と同じとなります。
Q:受益権は第三者に売買できると思うのですが?
A:信託契約の条項に、第三者に受益権を売買しない条項を入れます。
Q:トライアル期間中に、後継者候補以外の第三者に会社を譲りたいとなったら?
A:損害賠償の対象になります。
Q:負債はどうなるのですか?
A:トライアル期間中に、双方で内容を詰めていくことになります。トライアル期間に発覚する負債がある可能性もあります。
Q:Aさん(M&Aで売却経験有)は、このスキームを聞いてどう思いましたか?
A:売る側としては良いなと思いました。でも買う側がこんなに時間をかけてくれるかな?と思いました。
Q:信託期間中に給与は発生しますか?
A:雇用契約があるかによりますが、雇用契約無い場合は信託報酬などを給与代わりとして支払うケースが多いです。

執筆者:オプティアス事務局
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