M&A成功のポイント③身の丈をわきまえる(後篇)

目標は大きく、しかしステップは確実に

みなさんは、経営者や事業部門のトップとして、日々、経営目標や中期計画、そして自社の未来像について熱く語っておられるのではないかと思う。「石は高いところを目指して投げなければ、その下にすら当たらない」という自論を掲げている私自身も、常に目標は高く掲げている。

目標をやたらと高いところに設定しているからこそ、何とか前に進んでいるといってもいいかもしれない。

容易に達成可能な目標ではあまり成長している感覚が持てないからだ。

以前、売上高数億円の会社が今後の成長戦略にはM&Aが不可欠と考え、M&Aの実行により売上高100億円達成を目指していた。

その際、大きな会社を一挙にM&Aするのではなく、小さな会社も含めて少しずつM&Aを実行する方法を取り、着実にステップを踏んで進めたという話を聞いたことがある。大きな会社をM&Aするよりも時間はかかったが、十数年をかけて最終的に目標売上高である100億を達成したそうだ。

100億円を目標にするかどうかはともかく、このように大きな目標を掲げることは大切である。しかし、その達成プロセスについては、まずそれぞれの企業規模、経営状況や人員体制などを考えて、しっかりとしたステップを踏んだ上で進めて欲しい。以前勤めていた信用調査会社の先輩から、「急成長した企業は急に潰れやすい」ということを聞かされたことがある。

もちろん全部の企業に当てはまるわけではないが、急成長する過程で土台がしっかりと作られる前に新しい積み木を積み上げてしまうと、いずれ土台が持たなくなって崩れてしまうのは当然のことだ。

目的次第でM&A実行には色々な方法があるが、まず本業で地固めをした上で、その他にコアとなり得る事業を複数そろえてベース(土台)を作り、それら事業の強化を目的としてM&Aを進めるという方法もある。無目的にM&Aを繰り返して達成した100億円と、しっかりした目標に基づいてステップを踏みながら達成した100億円とでは、金額規模が同じでも中身は全くの別物と言えるだろう。自社の体力や規模に見合った「身の丈M&A」を実践していくことを、どうか忘れないでほしい。

規模ではなく内容が大切

そうは言ってもある程度の規模が無いと買収効果が得られないというケースもある。実際、売上10億円の会社が、売上1000万円の同業他社を買収してもあまり意味がない。

規模にして1%程度であれば、自社の努力だけでもどうにかなるからだ。ただし、もしもこの1000万円の会社が、非常に特徴のある特許や技術を持っている、または、自社と取引がない超優良企業を顧客として持っていたとしたらどうだろうか。

自社が持っていない特許や技術の獲得、自社と取引のない優良顧客との販売チャネルの獲得はM&Aの主要な目的のひとつであり、しかも、うまくいけばその後の事業拡大に向けた大きな成長エンジンとなり得る。

面白い事例がある。SNSゲーム大手のGREEが2012年10月にゲーム会社ポケラボを買収した(100%株式取得)のだが、その買収額がなんと138億円だった。

同社の発表によれば、ポケラボの2011年9月期の売上高は5億5600万円、営業損益は1億3500万円の赤字である。

ただし、2012年7月ー9月の四半期売上は8億6000万円、営業利益は1億6000万円にまで急伸している。このM&Aの目的はスマートフォン市場の世界的展開ということだが、この規模の会社を買収する金額としては破格といえる。

その意味で、規模よりも内容を重視したM&Aの事例のひとつである。

GREEの事例は極めて特殊な例だが、中小企業のM&Aにおいても大切なのは「量より質」であり、その内容が自社の経営戦略に合致していることが重要なのである。

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