インド人の多くは、コロナワクチン接種のデジタル証明書をスマートフォンで持ち歩いていますが、アメリカを含む他の先進国では、手で記入した紙のカードを持つ必要があります。
1750年代に産業革命が始まって以来、技術進歩の恩恵は発明から何十年も経ってからインド人にもたらされました。蒸気機関は発明から81年後にインドにやってきました。電気が普及したのは発明から78年後インドに導入されました。自動車は71年、コンピューターは22年、スマートフォンは4~7年かかっていました。ところが、コロナワクチン接種のデジタル化はこの傾向を逆転させました。
インドではCo-WINという公的アプリによって、予防接種の予約をオンラインで行い、証明書をデジタル保存することができます。途上国であるインドにとってCo-WINの成功は際立ったものになっています。
さらに、Co-WINの成功例はそれだけではありません。より多くの政府サービスがデジタルプラットフォームで提供され、利用されるよう連携しています。14億人の人口、13億人の通信契約者、9億人のインターネット契約者、約5億人のスマートフォンユーザーという大きな規模を持つインドに匹敵するデジタルソリューションを試みている国は、世界でもほとんどありません。
しかも、政府が構築したデジタルインフラを活かして民間企業である、Googleをはじめ大手テック企業やインドのスタートアップは金融、健康からeコマースに至るまでユーザーに革新的なデジタルサービスを提供するために競争し、イノベーションの原動力になっています。インドのデジタルエコシステムの多くの構成要素は、官民パートナーシップによって所有・管理されているか、完全に民間であることも成功例として注目されています。
インドのデジタル化は2009年、世界最大の生体認証デジタルIDシステムであるAadhaar(日本のマイナンバーにあたるデジタル認証番号)から始まりました。このシステムによって、インドのデジタルエコシステムが構築されていく中で、さまざまなデジタルサービス、商品、インフラ、プラットフォームが利用可能になっています。その多くサービスやITプラットフォームは、すでに1億人を超えるユーザーを獲得し日常生活に大きな影響を与えています。
これから数回に渡ってインドの生き生きしたデジタルエコシステムの様々な側面についてわかりやすく解説し、インドの14億人口にもたらす影響を探って行きたいと思います。
執筆者:阪口 史保(さかぐち しほ)
Hoshitry Impact 代表パートナー
投資ファンドにて13年間にわたり、投資育成、ファンド設立に携わる。
現在はインドと日本を結ぶコーディネータとして、日本企業の事業開発を伴走型で支援。
南インド・バンガロール在住。