前回から、インドで注目を集めるスタートアップ企業の事例と共に、インドのESGに注目が集まる理由について解説しています。
「使い捨てプラスチック (Single-Use Platstic)」に関する調査によれば、2019年の使い捨てプラスチックの廃棄量は世界全体で1億3千万トンに達しています。国別では中国とアメリカに次いで、3位がインド、4位が日本となっており、インドの都市化と共にゴミの量も先進国並みに膨れ上がっていることがわかります。
インドにおけるゴミ処理の課題は、都市部において分別されておらず行き場の無いゴミの山が許容量をはるかに上回る埋め立て場に廃棄されており、ゴミの配送や処理にかかるコストが増大していることから、より分散化したゴミ処理によりリサイクル率を上げる仕組みの必要性が高まっていました。一方でインドでゴミのリサイクルに関わる回収業者は、路上の紙クズ拾いに始まる多数の非正規(多くが法人化されていない)事業者であり、複数の仲介業者を通じ現金取引が常態化しています。
そのような環境において、ゴミの不法投棄や分別が充分になされていない廃棄物の販売、詐欺等の行為が頻発しているという問題がありました。また、公正な売り手を買い手であるリサイクル事業者が見分けることが難しく、相対で決められる価格も不透明な状況にありました。
そのようなインドのゴミ処理の課題を解決するスタートアップ企業、リサイカル(Recykal)は、ゴミ回収業者とリサイクル業者が透明性のある価格と品質で取引できるマーケットプレース、そしてプラスチック等包装や製品を生産する消費者メーカーがリサイクル回収量を正確に把握して社会的責任を果たすことができる管理システムを統合したプラットフォームを開発し運営しています。
同社は、成功起業家であったアベイ・デェシュパンデ氏と4人の共同創業者が、2016年に設立したスタートアップ企業で、2022年にモルガン・スタンレーから22百万米ドルの投資を受けたことで注目を集めました。
同社は、DXによって透明性のある価格と廃棄物の検品配送を提供することにより、これまでゴミ回収業者とリサイクル業者の間にあった不透明な取引や配送のリスクを取り除き、現在ではインド全国の1050のゴミ回収業者と325のリサイクル業者が取引を行うマーケットプレースに成長しています。(*同社ウェブサイトより)
また、2017年にインド政府が開始したEPR(拡大生産者責任)制度によって、プラスチック等包装や製品を生産するメーカーが消費者が使用済みの商品の廃棄について義務を負い、想定される廃棄量と同じ量の廃棄物を買取って適切に処理を行い、定期的に政府当局への実施報告をしなければならなくなりました。同社はEPRをメーカーが適切に行うための管理システムを提供し、ユニリーバやコカコーラ等の大手企業を含む200社以上が利用しています。
このように、同社の事業は企業のESG(環境・社会・ガバナンス)に直結し、SDGs-12「つくる責任つかう責任」に貢献しています。
ゴミ処理のようにインドでの率先した取組みが他の発展途上国のモデルと成りえる事業を展開する企業と日本のゴミ処理技術との連携を図ることで、インドを通じて世界に展開する可能性が開かれています。
執筆者:阪口 史保
Hoshitry Impact 代表パートナー
投資ファンドにて13年間にわたり、投資育成、ファンド設立に携わる。
現在はインドと日本を結ぶコーディネータとして、日本企業の事業開発を伴走型で支援。
南インド・バンガロール在住。