医療のデジタル化で健康寿命成長国を目指す

インド人の平均寿命は69.7年(2015~19年インド政府)と、日本の平均寿命の男性81.5年、女性87.6年(2022年厚生省)と比較すると10年以上の差があります。
インド人の多くがまだ良質な医療へのアクセスが困難であることが平均寿命にも影響していると考えられ、インド政府はこのような医療の課題をデジタル化により解決するために、2020年に6ヵ所の地域での試験的な実施を経て、国家デジタル・ヘルス・ミッションを開始しました。この政策によりインド国民に対しより良い医療アクセスを提供するために、14桁の健康識別番号である「ヘルスID」を利用して患者や一次医療・二次医療の医療従事者等の複数の関係者間での情報共有と調整を可能にする、全国どこでも利用でき、どの医療専門家や医療施設やヘルステック企業等の健康情報プロバイダーに対してもオープンで相互運用可能な医療システムを構築しました。
この政策はインド国内では”アユシュマン・バーラット・デジタル・ミッション”(ABDM)として知られており、”アユシュマン・バーラット”とは長寿に恵まれたインドという意味です。
2021年1月にコロナワクチン接種に登録するためのデジタルプラットフォームとの連携が開始されたことで、ヘルスIDの登録も増加し、現在までに4億件以上に増加しています。また、医療従事者の登録には、医師以外に看護師やその他の医療従事者も含まれるようになり、登録数が20万件を超えました。この背景には、州政府が行われる啓蒙活動、州政府からの指令、州の遠隔医療プログラムとの統合、成果に連動したインセンティブなどが、登録件数の増加に寄与しています。インド政府の保険規制当局は現在、保険会社に対し、医療保険の発行や更新の際に開業医の医療従事者IDを把握するよう助言しています。こうした取組みは、デジタル・ヘルス・システムの導入をさらに後押しすることになるでしょう。

インドの各州によって、デジタル・ヘルスの導入にはかなりのばらつきがあります。インド南部のアンドラ・プラデシュ州は、ヘルスIDの作成とデジタル医療記録への連携件数でトップの成果をおさめています。同州は、草の根の活動によって市民の意識向上に努め、初めて各家庭で電子カルテを作成し、それをヘルスIDに連携することに成功しました。医療従事者登録に関しては、インド北東部のメガラヤ州が最も優れた成果を上げています。
これは、世界銀行と共同で医療従事者の人材供給、計画管理を改善する保健システム強化プロジェクトが実施されたことに起因しています。インド北部のビハール州も貧弱な医療インフラにもかかわらず、各地区レベルでの継続的な集会、啓発キャンペーン、奨励金の支給を通じて、保健医療専門家の登録に成功しています。
今後さらなるデジタル・ヘルス普及により、糖尿病や高血圧のような生活習慣病が蔓延しているインドにおいて患者の常時モニタリングによるデータ解析がデジタルプラットホーム上で可能になり、国家の保健サービスを向上させことに役立つ上、国民の健康と長寿を実現するために重要な役割をデジタル・ヘルスが担っていくことになるでしょう。

執筆者:阪口史保
Hoshitry Impact 代表パートナー

インドのシリコンバレー、バンガロール在住。日本とインド両国を結ぶコーディネータとして10年の経験を持つ。 日本のベンチャーキャピタルにて13年間にわたり、投資育成、ファンド設立・運営、ビジネスアライアンスまたインキュベーションマネージャーとして起業家育成やベンチャー企業と大企業間の連携に取組んだ後、インド・バンガロールに移転。現地で培ったネットワークとビジネスモデル構築力により日本企業の事業開発を伴走型で支援。特に日本とインドの技術連携を推進することに情熱を持って取り組んでいる。

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