インド人口14億人中13億人以上のIDが生成されたインドの国民識別番号『アダール』は世界で最初かつ最大のデジタルIDプログラムの1つです。2010年末に開始されたアダールは、金融におけるインクルージョン(多様な人々が互いに個性を認められていると実感できる状態)の向上と政府制度の効率化という2つの主要な目的で導入されたデジタルインフラ公共基盤です。現在では、インドのデジタルエコシステムを活性化するという大きな目的のために構築された『インディア・スタック』の重要な構成要素となっています。
アダールはインドにおける金融インクルージョンの向上に大きく貢献しています。アダールがあれば、人々は銀行口座を開設し、携帯電話接続を簡単に入手することができます。またコロナ禍においては、政府が国民の銀行口座に直接給付金を素早く確実に送金し人々を困窮から救うことに役立ちました。
さらに、アダールは認証ツールとして300以上のフィンテックのITプラットフォームで利用されています。2015年にデジタル書類のオンラインリポジトリである『Digilocker』を立上げたことで、認証と検証はさらに改善されました。そこに登録された身分証明書類は既に検証されているため、認証にかかるコストと偽造のリスクを軽減することができます。これらのデジタル版の身分証明書は、証拠として物理的なコピーを持ち歩くことなく、様々なサービスを利用するために活用可能です。
10年足らずの間にアダールは10億人以上の人々に普及しインドにおける日常生活に欠かせないものになると共に国家のデジタル化に大きな役割を果たしていることに関して、他の途上国も関心を持っており、スリランカ、モロッコ、フィリピン、ギニア、エチオピアなどの途上国がこの仕組みを自国のデジタル国民識別システムを構築するために利用しています。
次回は、このデジタルエコシステムがどのように機能し、人々の生活に影響を与えているのかについてより具体的に解説していきます。
阪口 史保(さかぐち しほ)
Hoshitry Impact LLP
投資ファンドにて13年間にわたり、投資育成、ファンド設立に携わる。
現在はインドと日本を結ぶコーディネータとして、日本企業の事業開発を伴走型で支援。
南インド・バンガロール在住。