これまで3回にわたり、インドで注目を集めるスタートアップ企業の事例と共に、インドのESGに注目が集まる理由について解説してきました。
インドの地下水の使用量は中国と米国の二国を足した量よりも多く、地下水の使用量が世界で最も多い国となっています。
世界銀行の調査によれば、10年以内にインドの地下帯水層の60%が深刻な状態になると予測されています。また、インド中央地下水委員会(The Central Groundwater Board of India)は、現時点で国内の17%の地下水区画において帯水層からの流出する水量以上の地下水が乱用されており、そのうち5%は危機的な状態にあるとの推計を発表しています。
インドでは地下水利用の8割以上が農業用水に利用されており、多くの農家が地下水源に頼った農業をしていることから、農業の発展と共に井戸の数も増加してきました。過去50年間において、地下水を汲み上げる井戸の数は100万ヵ所から2000万ヵ所にも増加しています。
なお、従来インドでは、地下水場所を科学的に特定する手段が無く、地中へのボーリングを行なって初めて地下水の有無がわかるというリスクの高い方法で時間とコストがかかっていました。そのため、より正確で速く低コストの地下水の場所の特定方法が求められています。
そのようなインドの地下水の課題を解決するスタートアップ企業、Aumsat Technologiesは衛星データによるリモートセンシングとGIS(地理情報システム)を用いて地下水源調査を提供しています。同社はこれまでに3,800ヵ所の地下水源を特定し、農業の課題解決に寄与しています。
また、同社は地下水の場所の特定だけでなく、地下水源の水量減少や地域の水源利用状況について把握することで帯水層の水量を予測し、最適な井戸の設計や水を再利用する設備の設置についても提案することが可能です。
同社は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)やその他国際機関との連携により、イラク等中東の水源が乏しい地域における地下水開発プロジェクトにおいても技術を提供しています。
このように、同社の事業は最先端の技術を用いて、SDGs-11「住み続けられるまちづくりを」及び、SDGs-6「安全な水とトイレを世界中に」に貢献しています。
新しい技術により、これまで対策が充分に取られてこなかった環境の課題に対し、正確な状況の把握と計画的な開発を可能にし、地域のコミュニティの人々が環境保全や対策に関与することができるようになりつつあり、このようなインドにおけるESGの発展が世界のモデルケースとなる日も遠くないことでしょう。
執筆者:阪口 史保
Hoshitry Impact 代表パートナー
投資ファンドにて13年間にわたり、投資育成、ファンド設立に携わる。
現在はインドと日本を結ぶコーディネータとして、日本企業の事業開発を伴走型で支援。
南インド・バンガロール在住。