M&Aの現場から④「こういうM&Aは失敗する~僕たちの失敗:その1~」

皆さん、こんにちは!オプティアスの萩原です。
M&A思考養成講座を始めた頃から一番多い質問(というか要望)が「M&Aの失敗事例を聞きたい」というやつです。私がこの商売を始めたのは2004~2005年頃なので、ざっくり18~19年くらいM&Aをやっておりますが、当然上手くいくことばかりではないので、もちろん失敗事例も色々ございます(威張れたもんではないですが)。という訳で今回は、M&Aの失敗事例(僕たちの失敗)を踏まえてその要因を探ってみたいと思います。
我々M&Aアドバイザーの立場から考える「失敗」とは、
①M&A案件が成就しなかった
②M&Aを実行したが思った通りの成果が得られなかった
の2つに分類されます。①の場合、結局「縁が無かった」という、要するに「お付き合いした(しようとした)けれど結婚できなかった」というケースなので、感情面は置いといて何も起こらなかったという意味ではダメージは少ないと言えます。仮にDDまで実施して、数百万コストを掛けたとしても「M&Aの目的達成に繋がらない」と判断された場合は、スッパリ諦めて実行を見送るべきです。
私たちはM&Aを実行するにあたって、図(M&A戦略マトリクス)にもある通り、まず「M&Aの目的」をしっかり定めた上で、そのM&A案件実行が目的達成に有効なのか?について、社内で十分検討するようお勧めしています。

以前、技術者派遣会社A社(年商60億規模)によるWEBセキュリティ技術会社の買収案件を手掛けた時のこと。WEBセキュリティ分野への注目が高まってきた背景もあって、A社のM&A担当者は案件概要を見て「これは面白そうだし、伸びそうな会社だ」と判断し財務データを分析した上で基本合意書を締結、技術DDまでしっかり実施して事業内容を精査しました。
その結果、「想定していたほどの技術優位性が見られない(将来性が無い)」という判断に至り、M&A自体を見送ってしまいました。DD(会計、法務、技術)に数百万円のコストを掛け、検討にも相当時間を費やしましたので、M&Aをやめてしまうと単純なコスト倒れです。

しかし、技術者派遣事業とWEBセキュリティ事業との事業シナジーが結局見出せなかったこと、マネジメント人材の不足等リソース的にも対応が難しかったことを考えると、結果的に見送った判断自体は正しかったと思います。
このケースから学べる事は、そもそも技術者派遣の会社がWEBセキュリティ会社(事業)を譲り受けて何をするのか?という「M&Aの目的」についての議論が足りず、「IT(WEB)技術」という曖昧な言葉尻の接点だけで検討したことがまず失敗の要因と言えます。仮にいくつかの疑問に目をつぶって「えいやー!」とM&Aを実行していたら、恐らく損失が拡大したと思われますので、「勇気ある撤退」により物理的損失がDDコストと消費時間というレベルに収まったと考えればダメージは少なかったと考えることもできます。
また、このケースのように新しい概念や技術は魅力的に映ることが多く、M&Aでもターゲットとなりやすいのも注意点です。最近ではChatGPTなどのAI技術が話題で、「AI技術の会社をM&Aしたい」「AI会社に出資したい」と考える方もいらっしゃいますが、闇雲にAI会社だからといってM&Aをしてしまうと自社にとっても、相手の会社にも不幸な結末が訪れかねません。

昔から「M&Aの成功率は概ね20%~30%程度」と言われていますが、その失敗要因としては、そもそもM&Aの目的が曖昧だったり、M&A後のマネジメントが上手くいかなかったり(特に中小企業の場合は、マネジメントを担当する人材不足が要因となるケースが多い)というように、実は買収企業側に起因することも多いので、冒頭でお話した通り「目的の明確化」は極めて重要ということを最後に改めてお伝えしておきたいと思います。

会社は生き物です。活かすも殺すもあなた次第ということを忘れないように!!
今回は「転ばぬ先の杖」的な話でしたが、次回は実際にM&Aを実行したものの思った成果が得られなかった(上記②のパターン)についてお話したいと思います。お楽しみに!!

執筆者:萩原 直哉(はぎわらなおや)
株式会社オプティアス 代表取締役

中小・零細企業を専門としたM&Aアドバイザー。大手信用調査会社の調査員として延べ1,500社を超える企業の経営者と面談した経験を活かした「中小企業経営者・オーナーの目線に立ったM&A」がモットー。

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