皆さんこんにちは!オプティアスの萩原です。
ロシアによるウクライナ侵攻、安倍元首相の暗殺という歴史的事件で揺れ動いた2022年が終わり、新しい年が始まりました。世界情勢は相変わらず不安定な状況が続き、円安が落ち着きつつあるものの経済見通しも依然不透明ですが、こんな時こそM&A思考で様々な情報を「つないで」解決策を見出し、前向きに行動していくことが大切です。頑張って参りましょう!!
そんな訳で今月もM&Aの現場で経験した「あるあるネタ」をお話したいと思います。
M&Aというのは、ご存知のように譲渡会社(売り手)と買収会社(買い手)との間で行われますので、譲渡会社オーナー(株主)と買収会社との間で譲渡契約を締結し、取締役会の譲渡承認が得られれば万事オッケー!と思いますよね?手続き上はそうなのですが、でも実は、ロミオとジュリエットのように当事者同士が相思相愛で、結婚の約束までして、何ならもう同棲までしてても、上手くいかないことがあるのです。
銀行からお金を借りる際、社長が債務を連帯保証する
「経営者保証」というのを取られることが多いですが、M&Aを実行する際に、コレが結構やっかいになることがあるのです。会社がお金を返せなくなったら、社長が返済をする(代位弁済といいます)というものですが、M&Aで会社を譲渡してしまったら経営者じゃなくなるので、銀行も当然経営者保証を外してくれると思いますよね?ところが驚くべきことに「条件が揃わない」等の理由で外してくれないケースもあり、最悪の場合、M&A自体が破談になることもあります。
以前弊社で手掛けたM&Aでのこと。東京の電子機器メーカー(A社)が、新規事業として九州にある雑貨卸会社(B社)を100%株式譲渡でM&Aすることになったのですが、いざ譲渡契約書の締結!となった段階で問題が発生しました。B社の売上規模は約4億円程度なのに対し、有利子負債が約2億円と年商の半分程度あり、社有不動産だけでなく個人所有不動産も担保に取られ、且つ経営者保証も取られているため、B社社長が「この経営者保証を外さないと株の譲渡に応じない!」と言い出したのです。
当然のことながら、元々株式を譲り受けたら、A社社長がB社社長に代わって経営者保証を引き継ぐ予定だったので問題ないと考えていましたが、「先に銀行に保証解除のOKをもらわないと契約しない」と頑なに主張したため、止むを得ず譲渡契約書の締結は一旦ストップし、先に銀行交渉に入りました。
状況を説明すれば銀行も当然OKすると思われましたがなんと「(買収会社が)地元の会社じゃないと信用できないので保証解除はできない。解除するには不動産を売却して融資の全額返済が必要」と銀行が回答してきたのです。
その後何度か交渉を試みましたが銀行の態度は変わらず、一方で不動産の売却先探索も暫く続けたものの良い条件での売却先が見つからないまま時間が経過、結局株式譲渡の話自体が立ち消えとなってしまいました。
勿論銀行が悪いと言いたい訳ではありません。融資をする側にも当然融資に関するロジックがありますので、そのロジックを理解する必要があります。この事例でよく分かるのは、当事者間で譲渡に合意していても、ステークホルダー(=利害関係者、本事案では銀行)の理解が得られないと譲渡実行に移れないということです。実は、先方FA(譲渡会社)からも「恐らく大丈夫(保証は外してくれる)」という事前情報があったので安心していましたが、こちら側(買収会社)もこういう事態も想定して「もしもNGだった場合どうするか?」を念頭に入れておくべきでした。
今年から経営者保証を求める際には、その理由を経営者にしっかり説明するように経営者保証ガイドラインが変更になりましたが、これまでの民間金融機関からの融資は70%程度が依然として経営者保証を取っています(図参照)ので、M&Aを実行する際はこの「経営者保証」がちゃんと外れるか?をしっかり確認するようにして下さい。ホイホイ融資受けてると後で大変なので、経営者の皆さんは舐めて掛からないようにしましょうね!!
(出所)中小企業庁 経営者保証ガイド (https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/#guideline)
執筆者:萩原 直哉
株式会社オプティアス 代表取締役
中小・零細企業を専門としたM&Aアドバイザー。大手信用調査会社の調査員として延べ1,500社を超える企業の経営者と面談した経験を活かした「中小企業経営者・オーナーの目線に立ったM&A」がモットー。