人的資本開示も開始へ!TCFDに続く非財務情報の開示がやってくる!

人的資本情報開示という新しい波がやってくる!

M&A思考ニュース4号(2022年10月)にて、「M&Aと人材育成」をテーマとした記事をお送りしましたが、ESGの分野でも人材がホットな話題です。
2022年3月期の有価証券報告書より上場企業(東証プライム)に対して気候関連財務情報の開示、いわゆるTCFD開示が義務付けされました。
これに続く非財務情報開示として人的資本に関する情報の開示を早ければ2023年3月期より開始するとのとこです。(日本経済新聞朝刊:2022年11月28日 「人的資本開示、23年3月期から 大手4000社対象」)。
これは岸田内閣が2022年6月に「新しい資本主義実現会議」にて打ち出した“人的資本等の非財務情報の株式市場への開示強化と指針整備”(※1)という方針に基づくものです。
この30年もの間、日本の賃金水準は伸び悩み、海外との賃金格差がこのところニュースで取り上げられるなどで、賃金引き上げや人材投資への重要性が注目されています。需要拡大や国際競争力の基盤となるのは人材、すなわち人への投資を重要な政策に位置付けるというものでした。
これに伴い、上場企業に対しては国際的な企業価値を高めるために「人的資本の情報開示」を義務付けられます。これまでもM&A思考養成講座で取り上げてきたESGファイナンスの視点でも「人的資本の情報開示」が重要視されています。金融分野では投資家の思考が有形固定資産よりも「無形資産」重視へと大きく変化しており、米国の投資銀行調査によると米主要企業の企業価値に占める無形資産の割合は1975年の17%から2020年には90%に拡大しているそうです。
つまり、世界中の投資家はとりわけ人的資本を価値向上につなげている企業を投資対象として探しているとのことです。

ウクライナ侵攻をきっかけとしたエネルギー問題により石炭電力の復活などESGは環境面で退行しているように見えるものの、民主主義国家VS権威主義国家の構図では“人権”が厳しく問われる動きが強まっており、ESGのSocial(社会)を重視するモメンタムが止まることはないでしょう。
なお、世界的な流れとしては、EUでは2017年度から、北米では2020年8月から人的資本開示が義務化されており、日本もようやく世界の潮流に追いつこうとしています。これまでの経営と人的資本の経営とどこがどう違うのか?
それは、「人」の捉え方と意思決定について下記の違いがあるとされます。

人的資本開示の概要

企業にとって人材にかかる支出(給与・福利厚生費・教育研修費など)は「経費」ではなく、将来の企業価値を生み出すための「資産」として再定義されます。なお、実際にBSに資産計上されるのではなく、M&A的にいえば「のれん」(譲渡対価と純資産の差額)として捉えると理解しやすいかもしれません。

何をどのように開示するのか?

非財務情報可視化研究会は2022年8月、「人的資本可視化指針」を発表し、19事項の開示を推奨しています。開示の方法としては、TCFDと同様に「ガバナンス」・「戦略」・「リスク管理」・「指標と目標」の4つの要素で開示することとされます。
また、開示項目の1つの指針として、国際標準化機構
(ISO)が2018年に人的資本マネジメントの開示に関する統一規格「ISO30414」を制定しています。
なお、上場企業に対する具体的開示内容はまだ発表されておらず、どのような準備をすべきかIRや人事の担当部門は模索中のもようです。人事系コンサルティングやHRテクノロジー業界にとっては新しいビジネスチャンスといえるでしょう。

中小企業への影響があるか?

人的資本の情報開示義務は、中小企業にどのような影響があるのでしょうか?
開示義務があるのは当面、上場企業に限られるものの、上場企業と取引関係にある中小企業にとっては直接的・間接的に影響がいずれでてくるものと考えられます。
間接的な影響として考えられるのは、採用面での影響です。新卒やキャリア求職者が人的資本開示情報を参考にして就職先を決めるというムーブメントが定着すると人的資本情報の開示をおこなわない企業は採用面で不利になることが考えられます。
ビジネス面では、上場企業グループが取引関係にある中小企業に人権デューデリジェンスを求めるという動きがすでに始まっています。
政府が2020年10月にビジネスと「人権に関する行動計画」を策定し、日本企業が人権デューデリジェンスを導入することを促進しています。M&A思考倶楽部の会員企業にも既に人権デューデリジェンスに関するアンケート調査が入った、という声がありました。
このように大企業で始まった動きは、やがて中小企業に広がっていくことが予想されますので、「人的資本」というキーワードを意識してニュースを読んでいくことをお勧めします。

執筆者:M&A思考事務局
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