戦略①M&Aでニッチ集中化を狙う
本業とのシナジーを狙う
ニッチ集中化
以前、「儲かっているから」という理由だけで、本業とは関係ない事業をM&Aするケースが結構あったが、リーマンショック後は本業以外の余計な事業に時間をさけなくなり、結果的に売却したり損失覚悟で廃業してしまうなどの事例が多発した。
中小企業の限られた経営資源を有効活用するには、本業とのシナジーを念頭に置いたM&Aが最も安全であり、効果も出やすい。
異業種同士では人材交流もできないし、それぞれのノウハウを共有して活用するのも難しいためだ。
自社とシナジーがあれば、M&Aにより自社の人材とノウハウを有効活用できるため、より一層、ニッチ市場集中化戦略が活きてくる。
ある電子系素材メーカーが、隣接業種である顔料メーカーをM&Aしたケースでは、その顔料メーカーが競合他社の少ないニッチ市場に集中していたため、M&A後に親会社の人材と経営ノウハウを投入した結果、なんと単体売上がM&A前の2倍になったという。
ニッチ分野への進出に上手にM&Aを活用した好例と言えるだろう。
本業と違う分野への進出を狙う
一方、本業が行き詰っている、または将来性に乏しいという場合は、当然、新規事業分野への進出を検討すべきだが、自社とのシナジーのある隣接異業種ではなく、場合によっては、まったく違う分野への進出という選択肢もあり得る。
いわゆる「新市場への新商品(新サービス)投入=多角化」だが、これは本業と直接的関連性の薄い分野へ進出することで、本業が先細った際に会社を支えてくれる可能性があるという点で大きな意味を持つ。
どんな事業でも数年から数十年で波が来るものだが、その波の「山と谷」がうまく組み合わさってどん底にならないような事業の組み合わせ(事業ポートフォリオ)を狙えるからだ。
自動車業界のように非常に大規模なサプライチェーンの中で複数に事業をやっていると、万一業界全体が沈み込んだ場合、会社存亡の危機に陥る可能性があるが、例えば医療分野や小売り分野、または海外での別事業展開などへ進出していれば、本業が落ち込んだ際にも会社を救ってくれる。
この時に留意すべきは、本業が厳しい時に、さらにお荷物を背負い込むことにならないように、できる限りニッチ分野に集中した会社や事業を選択することだ。
以前、機械関連の商社がカジュアルウェアメーカーをM&Aするお手伝いをしたことがあるが、同社はその成功をてこにその後も同業種の買収を行って成功を収めていた。本業と違う分野への多角化という点では、うまくいった事例である。
海外への進出を狙う
内需の停滞が長引く中で、中小企業の海外展開も、より活発化している。従前は安い労働力を求めて発展途上国へ進出する例が多かったが、最近では海外の成長市場を目指して自社製品を輸出したり、現地需要を見越して生産設備を創るケースもある。
現時点ではあまり実績は多くないが、これからは需要の伸びを背景として、中小企業による海外企業のM&Aや出資が増加していく可能性がある。
チャイナリスクを背景に、インドネシアやミャンマー、カンボジア、ベトナムといったアセアン諸国への投資は増加傾向にあり、それに伴う消費市場の拡大も見込まれるため、中小企業のビジネスチャンスも拡大している。
本業を生かしたビジネス展開や、日本ブランド製品に輸出、更には異業種でもリスクの限定的なスモールビジネスなど、色々なビジネスが考えられるが、現地で事業を始めるきっかけがないという場合には、現地企業をM&A(出資)して事業を始める方法もある。
戦略②M&Aを使った差別化戦略
『差別化戦略』
ブランドを手に入れる
同業他社との競争に勝つために一番手っ取り早いのは、クライアントに認知された「ブランド」を手に入れることだ。ここで言う「ブランド」とは、「シャネル」や「プラダ」といった有名ブランドというわけではなく、自社がビジネスを展開している事業分野で顧客に支持を集めている会社や事業のことである。「あそこに頼めば大丈夫」「どうしても、あの製品じゃないと」という具合に、その会社や事業そのものが顧客の信頼を集めている場合、その会社や事業をM&Aで入手できれば、その時点で大きな差別化に繋がる。
少し昔になるが、中国のPCメーカーの「レノボ」が2004年にIBMからPC事業を譲り受け、同時にノートPCブランド「THINK PAD」を手に入れたニュースは大きな話題となった。
世界戦略が不可避となっていたPC業界にあって、有名ブランドの有無は死活問題だが、「中国ナンバーワンPCメーカー」レノボは、このM&Aにより一躍世界のトップメーカーの一員となったのだ。
特定分野で地盤を持っている会社を狙う派遣業界や運送業界のように、その事業を行う場合に特定の許認可を要する事業分野においては、その事業分野特有の価値基準が存在する。
例えば建設業の場合、過去の工事実績が公共工事への入札資格に反映されるため、会社そのものの歴史や工事実績が会社の価値評価の基準になることがある。
貸金業の場合は、番号が古い方が長く事業を継続していることの証左となるため、古い許認可番号を有していることが会社の信用力となっている。
例えば建設業の場合、過去の工事実績が公共工事への入札資格に反映されるため、会社そのものの歴史や工事実績が会社の価値評価の基準になることがある。
貸金業の場合は、番号が古い方が長く事業を継続していることの証左となるため、古い許認可番号を有していることが会社の信用力となっている。
このように自社単独では実績が少ない、または社会的信用力が不十分なため事業を拡大できない場合、業歴が長い会社や事業実績が豊富な会社をM&Aすることで、時間をかけなければ得られなかった価値を獲得することができるのだ。
新規事業に進出する際にも、長い期間事業を続けなければ得られない資格が手に入るので、「時間を買う」という点においても極めて有効な戦略と言えるだろう。
ノウハウを手に入れる
ブランドや資格、許認可といった目に見える価値での差別化のほか、その企業独自のノウハウを手に入れるという目的でもM&Aは有効だ。例えば、自社だけでは開発できなかったような製品の開発ノウハウや技術者を獲得するために、会社や事業を丸ごと買収してしまう方法がある。
韓国企業や中国企業が、日本企業の事業部門をM&Aすることでノウハウを手に入れたという話はよく聞くが、中小企業でも同様にノウハウを手に入れ、事業の差別化を図るためにいM&Aを活用するのは有効な戦略だ。
ただし、実際にM&Aを検討する際に、そのノウハウが企業のどの部分に存在しているのかは十分精査する必要がある。
以前、某メーカーのM&Aを手掛けた際、お目当てのノウハウはその会社に全く存在せず、ほとんどすべてが外注先の下請け業者に依存していたという事例があった。
結局、その案件自体が見送りとなったので事なきを得たが、先入観や思い込みには十分に注意してほしい。
戦略③M&Aと企業間ネットワーク構築
『企業間ネットワーク』
M&Aで新しい商流を獲得する
M&Aの目的は企業の状況により千差万別だが、中小企業がM&Aを行う目的で特に多いのは「販路の拡大」だろう。自社単独ではどうしても獲得できない代理店権や取引口座を一定数に絞っている企業との取引口座獲得など、M&Aによって得られるメリットは数多い。
ただしこの場合、事業や会社を買収する手法(スキーム)に注意を要する。
一般的に、中小企業がM&Aをする場合は、その会社の株式を買い取る「株式譲渡」という方法と、その会社の事業(従業員、事業用の資産、事業ノウハウ等)だけを買い取る「事業譲渡」という方法がある。
前者の場合は、会社のオーナーチェンジなので、従業員や取引先に影響を与えずにM&Aが実行できるメリットがある。一方、後者の場合は、必要な部分だけを引き継ぐことができるメリットがあるが、従業員や取引先が継続できないというリスクが生じることがある。
いわば、前者は「コップに入ったジュースをコップごと引き受ける」形だが、後者は「コップに入ったジュースを新しく用意したコップに移し替える」形なので、移し替え作業中にこぼしてしまう危険があるのだ。
ひどいケースでは、半年後には取引先が半分しか残らなかったという例もあるほどだ。
このように、商流を引き継ぐという目的でM&Aを実行する場合は、そのスキームを十分検討してから実行に移さないと、取り返しのつかない事態に発展する可能性がある。
特に、代理店権や許認可といった会社固有の財産は、事業譲渡では引き継げないことも多いので注意が必要である。
あらゆる情報をネットワーク構築に活用する
M&Aを検討したが、実際にはM&Aに至らなかったというケースも少なくない。
しかし、その際に収集したM&Aに関する情報は、自社のビジネスを拡大するための新たなネットワークの構築につながる。
大切なのはM&Aの検討過程において「事業と事業をつなげる」という発想をもって情報を活用しようという思考である。
その情報を有効に活用しようとする中で、このような考え方をもって情報に接していると、自然と自社を起点とした情報ネットワークが構築されていくものだ。
弊社の場合、他社と面談をした場合には、必ず「ゼロでは終わらせない」と肝に銘じながら話すことにしている。
たとえM&Aに直接関係ない方向に話が流れても、自分のネットワークを使って何かを提案したり、誰かを紹介する筋道をつけたり、相手の話に新しい情報があればメモしておき、のちほど「何か・どこかに繋げられないか」を考えたり…と、さまざまな活用方法を考えるのだ。
こういう作業をすることによって、紹介した会社から別の仕事がもらえたり、他の会社を紹介してもらったりという流れが出来上がり、また、新しいネットワークに繋がっていくのである。
M&Aに限らず、会社の経営をしているとさまざまな情報が入ってくる。
そのような情報を「自分とは関係ない」と思わず、前述のようなM&A的発想でもう一度よく見てみると、意外にも自社の発展につながるような情報があるかもしれない。
是非とも普段から「M&A的発想法」で情報に接し、あらゆる情報を有効的に活用することをお勧めしたい。