M&A成功のポイント②会社は「生き物」であるということを忘れない

収益を上げるのは従業員

会社というのは、個人または集団が集まって収益活動を行う営利団体だが、社長一人で商売をしているならともかく、ある一定の組織まで集団が成長している場合、商売を実際に行うのは従業員である。

M&Aの対象となり得る会社や事業は、通常ある程度の組織体になっているのが普通なので、会社や事業を買収するというのは、「従業員が創り出す収益システム」を譲り受ける行為と言える。

つまり、収益を上げるのは会社というハコではなく、他でもない従業員そのものであり、この従業員が最大限パフォーマンスを上げるようにステージを整備していくのが経営者の役割なのである。

話しは少しそれるが、2002年頃、「アジア最強の中盤」と言われていいたJ1ジュビロ磐田のパスワークはまるで全ての選手が同じことを考えているのではないかと錯覚するほど有機的につながっていて、バックラインから中盤、そして前線へとボールが流れるように繋がれていく様子は非常に美しいものだった。このジュビロ磐田のパスワークのように、従業員全員が有機的に繋がって活動すれば、きっと素晴らしい業績が期待できるだろう。

集団の目的が明確で、各自が自分の役割とまわりのメンバーとの関係を十分理解している組織。当時のジュビロ磐田は、企業経営の視点からも非常に学ぶ点が多かったのだ。そして、当時の指揮官である鈴木政一監督は、組織を有機的に繋げてパフォーマンスを最大限に生かした素晴らしい監督であった。

会社というのは、従業員の繋がりで創り上げられた、まさに「生き物」だ。

しっかり育てればまっすぐ育つし、成績も上がっていく。しつけを怠ると不良になってしまうし、栄養をうまく与えないと病気になってしまうのだ。M&Aで会社を譲り受けたら、まずこの「生き物」をどうやって育てていくか、愛情を持って考えてほしい。伝われば必ず答えてくれるはずなのだから。

「買ってやった」は禁物

以前、ある関西の金属加工会社に伺った時のこと。

会社の経営がピンチなので、スポンサーを探しているという情報を元に、当時懇意にしていた「技術系ベンチャーキャピタル(技術のある会社に対して投資を行うファンド)」の担当者を連れて行って経営陣と話をした。

ところが、その担当者は挨拶もそこそこに、まだ相談の段階だというのに「うちが出資したら、もっとバリバリやってもらいますよ」とか「現状の生ぬるい管理を見直して、徹底的にたたき直します」という“上から目線”で話を始めた。

確かに、苦境に陥っているのは事実だし、やる気があるのは大切だなぁと思いながら話を聞いていたが、「お金を出してやるんだから」という趣旨の発言が飛び出した途端、黙って聞いていた社長と専務の表情が変わった。明らかに不快感が顔に出たのだ。

これはまずいと判断し、話題を別の方向に誘導してその場は事なきを得たが、ほどなくして先方からお断りの連絡が来た。

当然である。むろん、形の上では救済型M&Aなのだから、ある程度厳しい条件が提示されるのはやむを得ないが、信頼関係を醸成する前にこんな物言いをしていまったら、まるで「金にモノを言わせた脅迫」のようなものだ。

違う歴史を持つ企業同士が、何らかの理由で「同じ会社(同じ企業グループ)」に統合されれば、大企業であろうが中小零細企業であろうが、どんな企業規模であっても「どっちが上で、どっちが下」という部分に拘るものだ。

住友銀行とさくら銀行の統合で誕生した「三井住友銀行」、興銀・第一勧銀・富士銀の都市銀3行を母体とする「みずほ銀行」、そして、東京三菱銀行とUFJ銀行を母体とする「三菱UFJ銀行(前進は「東京三菱UFJ銀行」)」。

まだ、玩具メーカー老舗のタカラとトミーが合併してできた「タカラトミー」、ゲーム大手と玩具大手が経営統合して誕生した「バンダイナムコ」など、「起業の歴史はM&Aの歴史」と言われれうように、日本でもこれまで無数の企業合併やM&Aが行われてきた。

企業規模の大きな組織同士の統合には、企業名の順番や重複する店舗の統合・閉鎖、そして代理店の整備など、当事者だけでなく、多くの利害関係者を巻き込みながら「どっちが上で、どっちが下か」という序列が決まり、新しい組織として生まれ変わっていく。

M&Aにおいて、上下関係が明確な場合、特に中小企業同士のM&Aのようなオーナー色が強いケースでは、「うちが買ってやった」と「うちは買われた」という感情的なしこりが残りやすい。

以前にも少し触れたように、M&Aされた会社の社長や従業員の気持ちはセンシティブになっているので、M&Aによると統合効果を最大限に発揮してほしいと思うのであれば、特に従業員同士で「買ってやった」という態度が出ないように十分に配慮することを忘れないでほしい。

買収対価を払うのも従業員

ところで、「株式譲渡や事業譲渡を行ったとき、譲渡対価を払うのは誰か?」と問われたら、どう答えるだろうか。正解は「株式を譲り受けた買収者(買収会社)」である。

事業譲渡の場合も同様に、「事業を譲り受けた買収者(買収会社)」が対価を支払っている。一億円の株式を買い取れば、株主に一億円を支払うのは買収社(買収社)」。

しかし、よく考えてみると、買収会社はボランティアで一億円を支払う訳ではないので、支払った一億円以上の利益を買収した会社や事業から回収しないといけない。

では、買収資金一億円を誰が稼いで買収会社に返済していくかというと、他でもない買収された会社(事業)の従業員なのである。

株を譲渡して一億円をもらった株主や、事業を譲渡した先の会社の従業員が稼いで払ってくれるわけではないのだ。

つまり、買収対価は買収した会社が払っているが、実はそれは買収された会社の従業員が支払うことを前提にしているのである。

このように書いてしまうと買収された会社の従業員は憤慨しそうだが、M&Aの仕組みは実はこのような従業員の働きによって支えられていると考えることもできるのだ。

よく、「私の会社の社員を守ってあげてください」と言って自社の譲渡を相談しにくる社長がいる。

しかし、現在の会社の収益力では100年かかっても回収できないような譲渡金額を要求してきたりすると、どうしても「私がお金をもらうために、うちの社員を100年こき使ってください」と言っているように聞こえてしまうのである。

確かに、今まで育て上げてきた会社の価値をできるだけ高く評価してほしいという社長の気持ちも分からないでもない。

しかし、M&Aによる買収会社の資金回収は、買収した事業によって行われ、その事業を動かしている従業員によって稼ぎ出されているという事実を十分認識した上で交渉をしてほしいと思う。

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