M&Aの実行手順⑬クロージング・後篇

結構大変な最終条件交渉

DDの報告を受けて最終的な提示条件がまとまったら、いよいよ最終条件交渉に突入する。

幸いにしてLOI(基本合意書)の内容とほぼ同一条件で交渉がまとまれば最高であるが、残念ながら、前述のとおりDDの結果、大抵のケースでは「知らなかった何か」が白日の下に晒されてしまうため、LOIで合意した内容を修正する必要が出てくる。

そしてまた、大抵のケースで譲渡会社のオーナーは色々と条件変更を拒むのだが、ここからはもうお互いの熱意と、「ここまでの作業・経費を無駄にしたくない」という思いがどれだけ強いのかの勝負とも言える。

私たちM&Aアドバイザーは、ここでうまくいかないと「成功報酬」がもらえなくなってしまうので、当然、自分の経験と知識を総動員して、最善の結果につながるように必死で最大限の努力をする。

譲渡金額の減額については、減額の正当性について根気強く説明したり、退職金の上乗せや営業権の再計算で対応したり、顧問契約の期間延長や顧問料の上乗せを提示したりと、さまざまな条件を考えて一生懸命すり合わせをするのだ。

このような努力の結果、むなしく時間だけが過ぎて案件の検討見送り(業界用語で「ブレーク」と呼ぶこともある)になってしまうことも少なくないが、買収会社の社長と譲渡会社のオーナーの案件成就への熱意と、手前味噌ながら我々M&Aアドバイザーの頑張りにより双方が最終的に条件合意すると、晴れて「譲渡契約書」の締結へと進むことになる。

なお、金額面での合意がほど遠いなど、どう考えてもこのM&Aを進めることがお互いのメリットにならないことが明確になったり、当初考えていた会社の内容と実際のDD結果が著しくかい離していて、当初の目的達成に至らないことが確実になってしまった場合など、無理に進めるとかえって双方のデメリットになってしまう場合には、この段階でブレークすることもある。

M&A検討に膨大な時間と労力、そしてコストをかけてきた場合は特につらい決断と言えるが、M&Aの実行そのものが事業の発展にプラスにならず、今後更に大きな問題に発展しかねないなら、「勇気ある撤退」をすることも戦略上きわめて重要な決断である。

そして、無理がある決断は多くの場合、失敗という形に帰結する。最後の最後、最終決断をするのは社長の仕事なので、冷静な判断を持って対処することをお願いしたい。

譲渡契約書の締結と譲渡の実行

最終条件交渉により譲渡条件が確定すると、最終的な条件を記載した「譲渡契約書」を作成して、いよいよ双方が捺印する運びとなる。
両社が揃って捺印と必要な手続きを行うわけだが、案件の規模や当事者の要望によっては、ちゃんとした場所を使って「譲渡契約書調印式」を執り行うこともある。ともかく、当事者はもちろん、我々M&Aアドバイザーも、ここまでくると漸く一段落という感じで感慨もひとしおである。

譲渡契約書はそれぞれのスキームに応じたものを作成する。株式譲渡であれば「株式譲渡契約書」を作成し、事業譲渡であれば「事業譲渡契約書」を作成する。

なお、中小企業(株式非公開会社)の場合、株式の譲渡制限があるので、それぞれの契約について、取締役会や株主総会の譲渡承認決議が必要になるため、事前に必要な機関決定を取って議事録を作成しておくのを忘れないように。

譲渡契約書の調印が済むと、最終段階である譲渡の実行へ移る。

株式譲渡の場合、株券発行会社であれば株券の引き渡しと、株主名義書き換え及び株主名簿(株主名簿記載事項証明書)の交付、株券不発行会社であれば株主名簿(同上)の交付を行う。

譲渡対価の支払は、指定口座への振込により実行し、振込が確認されたと同時に書き換え手続きを行うが、通常これらの手続きは株式譲渡契約書の調印と一緒に、一日で終わらせる。

事業譲渡の場合、契約をした日と実際に譲渡を実行する日が違う点に注意する。これは会社のオーナー権の譲渡である株式譲渡と違って、事業譲渡では事業に関わる人員、資産、取引関係の個別譲渡のため、取引先への告知や取引口座変更の要請、各種契約書の再契約手続き、従業員の転籍手続きなど、譲渡実行に必要な諸手続きを行う必要があるためだ。
通常は、事業譲渡契約締結日から、概ね1か月~2か月程度空けて、実行日(クロージング日)に必要な資産の譲渡を受け、譲渡会社に対して譲渡対価を支払って手続き完了となる。

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