M&Aの現場から①「社員を甘く見るな」~社員には話が通ってるって言ってたじゃん!事件~

重要な社員には自分の方針を伝えておく

皆さんこんにちは!オプティアスの萩原です。
「M&Aと人材育成」について、皆さん読んで頂けましたか?
簡単に「会社を売る・買う」と言ってるM&A業者さんは多いですが、会社は「モノ」じゃなくて「人間の集合体」ですよね?なので、会社(事業)を買ったからと言って社員が今まで通り働いてくれる保証はありません。
ですから人材教育というか、残ってくれた社員の「ハートをつかむ」ってことがとても大切なんですよね。そして、そのために必要なのが人材育成です。
会社の事業は社員が働いてくれないと、どうにもなりませんので、M&Aを実行する際に一番大切なのはこの社員(役員も含む)だったりします。
という訳で今回は、社員にまつわる実際のM&Aで経験した「話が違うじゃん」という事例についてお話したいと思います。

某年の夏ごろ、知り合いのFA(フィナンシャルアドバイザー=M&Aアドバイザー)から和菓子屋さんの譲渡案件の相談を受けました。
企業でPRを担当していたA社長が、ご自身でレシピを開発。おはぎをメインにした品揃えで2年前に都内に1店舗を開店しましたが、口コミ、SNSで話題となって各種メディアに取り上げられて、一気に知名度が上がりリピーターを獲得、地域有名店になったという何とも凄そうな会社です。
未経験なのに1年足らずでゼロからリピーター獲得、繁盛店にするなんて凄いですよね?
A社長と社員1名(製造)、アルバイト2名(製造、接客)という少人数で運営していたため、製造能力も限られていましたが、固定費が少ないこともあって毎月黒字を確保。
徐々に経営も軌道に乗っていたそうです。

しかし、少人数運営でありがちの過労が重なって、なんとA社長が腰の病を患うようになり現場作業が困難な状態に陥り、自らが陣頭指揮を執って経営を継続できないという判断に至り、会社を譲渡することに決めたとのことでした(FA談)。
当初から興味を持つ会社も数社いたようですが、A社長の譲渡希望額が利益水準から考えるとかなり高額
(年間利益の約7倍)だったため合意に至らず時間が経過しました。
結果的に、秋口ごろFAから「譲渡希望額を半額に下げたので検討できないか?」と再度相談があり、ちょうど新規事業で飲食事業を始めることになった関西で建設業を営むB社長に紹介したところ「面白そう!」ということで、とんとん拍子に話が進み現地視察することになりました。
現地で商品を食べたところ味も良いし、A社長の人柄もよく、社員もとても感じのいい方で、全般的に極めて好印象。実質的な事業収益を見極める必要はあるものの「是非進めましょう!」という判断となり、A社長の譲渡希望額、その他条件も合意して「買収意向表明書」をすぐに提出、本格的検討に入りました。
ただし、B社長は関西在住のため、A社長のサポート
(一定期間)と社員の継続は必須事項となります。これが担保されないと出来ないので心配しましたが、A社長に確認したところ「ちゃんと話してあるので大丈夫」とのことで一安心。

とはいえ、やはり心配なB社長。
「買収前にちゃんと社員と話をして意思確認をしたい」と申し入れたところ、A社長も快諾。
「ではみんなで話しましょう」という段取りになりました。いい流れですよね?もうここまでくれば、業績が急変しなければ普通M&A成立♪♪です!

ところが・・・なんと面談の前日にFAから電話が入り「A社長が社員に話したところ『そんな話は聞いてない。M&Aなら私は辞める』と猛反発してきたので一旦面談を延期してほしい」との要請が!

あれれ?何度も確認して「大丈夫」との返事だったのになんで!?と聞いてみたところ、どうも社員は一定期間仕事を覚えたら独立起業するつもりだったとのこと。
それならB社長と一緒にやればいいはず・・・とも話しましたが、一度ボタンを掛け違えると「信頼」は「疑念」に、そして「不信・不満」へと繋がります。

A社長が説得しても社員の態度は変わらず、どうも頑なに拒絶反応のようで、B社長も「話が違うじゃん!社員には話が通ってるって言ってたじゃん!」と不信感を持つに至り、結果的に案件自体が暗礁に乗り上げてしまいました。
この事例で思うのは「A社長の説明不足」です。
そもそもA社長は病を患っており長期的に経営は不可能、更に資金的な面を考えても個人経営の状況では事業拡大はおろか、安定した事業継続も困難です。こういった事実をちゃんと社員に話し、「自分が引退しても次の経営者には君が独立できるように話しておくからね」など将来ビジョンを普段から語っておけばこのような事態にはならなかったはず。

M&Aを実行する際に、社長は「自分が何でも決められる」「社員は私の言うことなら聞くだろう」とか思いがちですが、全くもって甘いです。誰だか分からない新しいボスの元で働く社員の不安を分かってあげないといけないのです。
だからこそ自分が引退を見据える段階になったら、なるべく早い段階で重要な社員(キーマン)には自分の方針を伝えておく必要があります
そんなわけで皆さん、会社を譲る場合でも、譲り受ける場合でも、社員の気持ちをちゃんと把握できてるかどうかはしっかりチェックすることを忘れないようにしましょう!
それではまた次回!!

執筆者:萩原 直哉(はぎわらなおや)
株式会社オプティアス 代表取締役

中小・零細企業を専門としたM&Aアドバイザー。大手信用調査会社の調査員として延べ1,500社を超える企業の経営者と面談した経験を活かした「中小企業経営者・オーナーの目線に立ったM&A」がモットー。

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