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M&A現場リポート②苦労はしたけど徒労に終わる(前)

※実話をもとにしたショートストーリー

▶始まりは突然に

みなさんは、自分が経営している会社がピンチに陥ったら、どういった対応を取るだろうか? 実は我々経営者は、売上を伸ばしたり事業を拡大するための勉強や努力は当たり前のようにやっているのに、「いざ資金繰りに困ったらどうすればいいか?」といったピンチ対応、すなわち「危機回避ノウハウ」については、ほとんど興味を示さない。そして、危機に陥った時に初めて真剣に考えるのだが、どうしていいか分からないという状態に陥ってしまうことも多い。

 

ある初夏の朝、事務所で仕事をしていると、携帯電話が鳴った。懇意にしている電子機器メーカーの社長からだ。相談があるというので話を聞くと、」その社長の知人が経営している九州電子産業(仮称)の経営がどうも危ないという。売上高60億円、取引先も数百社に及び中堅電子部品メーカーだ。直接資本関係や取引関係があるわけではないが、気になるから一回会って相談に乗ってくれないか、ということなので、まずは電話で話を聞くことになった。

 

早速、同社の鈴木社長に電話で話してみると、まじめで大人しい感じの方で、口調からはあまり切迫感は感じられなかった。彼曰く、現状特に問題はないとの話だったので、事情を伺っただけで電話を切った。他の案件で多忙だったこともあり、連絡をくれた電子機器メーカー社長にも報告して、当面は様子を見ようということで一旦は決着した。

 

しかし、その数か月後に事態は急変する。

 

▶判断を分けた選択

電子機器メーカーの社長から2度目の電話をもらった時、状況はすでに逼迫していた。銀行からの運転資金融資(5億円)がストップしたため、一ヶ月後の決済ができないという。取引先に支払ができなかった事実がばれたら、仕入も止まってしまうため、その瞬間、事実上倒産となる。我々はすぐに弁護士を手配して、緊急で経営会議を行った。その時初めてスズキ社長と顔を合わせたので、もっと早く手を打てなかったのかという話をしてみたが、当の社長はあまり数字が分かっておらず、経理部長にほとんどの資金繰りを任せていたという。

 

経理部長が会社の資金繰りを仕切っているケースは、中小企業の場合珍しくない。しかし、経営者と十分信頼関係が築けていないと、経理担当者による資金の不正流用や危険な資金運用(投資)という残念な事故につながることもある。実はこの会社でも「経理部長と銀行が共謀している:という情報があったのだ。経理部長としては、銀行と共謀して会社を苦境に陥れたところでなんの得もないので、正直そのような事実はなかったのだが、なにしろ非常事態である会社だ。論理性という思考プロセスは「疑念」の前では本当に無力である。

 

さて、鈴木社長や弁護士、そして件の経理部長も参加した緊急経営会議で、鈴木社長が一通り会社の状況を説明して、資金繰りや今後の方向性について議論を開始したところ、弁護士から「自己破産しかないですね」という意見が出された。売上の減少や銀行への支払いを考えると、早晩資金が詰まってしまうのが目に見えていたためだ。

 

しかし、よく考えるとこの会社、これまで銀行への支払いはもとより、支払先への支払いだって一度も遅れたことがなかったのだ。目先の展望は真っ暗だが、明るくするための努力をしてからでも遅くはないはず。そこで我々は「銀行への支払い条件変更や不要資産売却、リストラを行えば何とかなりませんか」と聞いてみた。その時、それまで一切口を閉ざしていた経理部長が、「社長、一言よろしいでしょうか」と前置きして、「大丈夫です。すでにリストラプランも策定済みです。我々は何とか踏ん張ってこの会社を守りたい」と発言したのだ。銀行との共謀を疑われていた経理部長が、実は一番会社のことを心配して、一生懸命会社が生き残る術を模索していたというわけだ。

 

それからすぐに鈴木社長、経理部長、そして営業現場も協力して直近の支払日を何とか乗り切り、本格的な再建のへの道を模索することとなる。自己破産は回避したものの、自力で資金をつないでいくには限界があったため、結局「民事再生法」の申立てを決めて、弁護士やファイナンス会社(民事再生開始後でも融資してくれる場合がある)と連携して裁判所に民事再生法の申立てを行い、債権者説明会で債権者へのお詫びをした後、スポンサーの登場を待つこととなった。