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M&A現場リポート①怒鳴る社長と泣く社長(後)

※実話をもとにしたショートストーリー

▶焦りと緊張

その日、電話口の佐藤社長はいつもの大人しい話し方ではなく、若干イライラした口調だった。進捗状況が遅れているのが不満らしいのだが、相手のいることだからしょうがないと言った途端、「なんで予定通り進まないんだ。もう見送る!」と突然電話越しに怒鳴りつけてきたのだ。タイムリミットと決めていた3月末はとっくに過ぎ去り、すでにゴールデンウィーク目前。ようやくまとまると思っていた小松マテリアルとの交渉にも時間が掛かっていたため、緊張感もマックスだったのだろう。しかし、ここで投げ打ったらこれまでの努力がすべて水の泡だ。今更あとには引けないのは佐藤社長も重々承知なはず。にも関わらず一方的に罵詈雑言を投げつけてきたのだ。

 

しかし、緊張感マックスなのは我々も同じこと。最初はなだめていたのだが、あまりに一方的な電話に、「だから話を聞けって言ってんだよ!」と、よせばいいのに怒鳴り返してしまった。電話を切られようがお構いなし。こっちも火がついたので、再度かけなおして怒鳴り散らす。頭の隅で「あー、なにやってんだろう」と思いながらその後数分間、大人とは思えない怒鳴り合いが続いた。ところが「やり方が悪い」だの「その口のきき方はなんだ」だの散々言いたい放題言い合うと、不思議と冷静になり、お互いガソリンが切れかかったところで、「とにかく頑張ります」「こちらこそ、よろしくお願いします」と言い合って電話を切るに至ったのだ。双方とも真剣に取り組んでいることが認識できたからなのか、この一件以降、以前にも増して意思の疎通が図れるようになり、佐藤社長も以前のような優しい対応に戻っていった。

 

そして、5月中旬。ようやく条件合意に至り、めでたく株式譲渡契約書を締結し、株式譲渡も滞りなく実行され、M&Aもめでたく完了するに至った。

 

▶感謝の涙・・・やってて良かった

その後、佐藤社長とは報酬の受け渡しや、残務の打ち合わせなどで数回顔を合わせたが、典型的なゴリラ顔だったその顔からは剣が取れて、晴れやかなチンパンジーのようにやさしい表情になっていた。

 

その後、しばらくしてからまた佐藤社長から電話があった。怒鳴り合いのトラウマから「うわー。また何かクレームでも言ってくるのかな」と恐る恐る電話に出ると、一段落ついたので是非食事に招待したいという。意外な言葉にびっくりしつつ、数日後に銀座で食事をすることになった。

 

食事の席で、近況や今後のことなどを聞いた後、出会った日から株式譲渡が成立するまでの色々なエピソードに話が及んだので、怒鳴り合いをした電話当時の心境を聞いてみると、自分でも訳が分からないほどピリピリしていたのだという。会社を譲ってリタイアする社長にとって、M&Aが成功するかどうかは、まさにその後の人生を左右する一大イベントだ。そんな崖っぷちにあるのに、ちっとも進まないように感じて、きっと夜も眠れないほど気が気でなかったのだろう。当時の佐藤社長の気持ちを考えて、遅ればせながら反省したのを覚えている。

 

そして最後に、佐藤社長は「みなさんのおかげでうまくいった。ありがとう」と言って、泣いてくれた。この仕事をやっていて本当に良かったと思う瞬間である。

 

M&Aアドバイザーというのは、人の人生を背負っている責任の重い仕事なのだという当たり前のことを、改めて深く考えるきっかけになった思い出深い仕事だった。