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M&Aの実行手順⑥条件交渉・前篇

 

<経営戦略としてのM&A>(16)M&Aの実行手順⑥条件交渉・前篇

▶よくある条件交渉のポイント

 

中小企業のM&Aに携わっていると、譲渡側のオーナーから様々な希望や条件が出てくるのだが、その多くはお金や自身の待遇に関するもので、中には「そんな条件飲めるか!」というトンチンカンな条件もあり、思わず笑ってしまうこともある。しかし、譲渡するオーナーにすれば、その後の人生に関わる大切な話なので真剣になるのは当たり前なので、できる限り双方の立場を理解しつつ、納得いく条件でまとまるように努力していくのが重要である。以下、よくある条件交渉のポイントについて、いくつか触れていきたい。

 

 

①譲渡価格

当たり前だが一番重要な条件。それぞれの立場で希望金額を算定するが、往々にして譲渡側の提示額は高い。長年赤字続きで債務超過なのに「この会社の価値は利益ではなくブランド力だ」と言ってウン億円を上回るような価格を提示してくる時もある。そんなに価値があるなら売らなきゃいいのに、と思うので「ご自身ならその金額で買いますか?」と聞いてみると、ほぼ全員「買いません」という答えが返ってくる。不思議である。

 

中小企業のM&Aの場合は、以前ご説明した通り、他ではほとんど純資産をベースに交渉がスタートし、そこに営業権(のれん)を上乗せする手法が多い。双方が依拠する企業価値算定方法で算定した金額を比較して、あまりにもかい離が激しい場合は、その段階で検討見送りになることもあるが、多くの場合はどちらかが折れて妥協点を探ることになる。

 

さて、双方が対立した場合どちらが強いかというと、最近の事例では、やはり買収側の「減額」指摘が通ることが多い。中小企業のM&Aの場合、買収監査(後述)の結果、回収不能の売掛金や不良在庫など、資産を減算する要素が見つかることが多いためだ。それでもしっかりした収益を上げていて、買収側にとって魅力的な事業であれば減額分を取り戻すほどの金額で交渉が妥結することもある。

 

②社長の退職金

企業価値の算定と同時に条件提示されることが多い。事業が堅調な優良中小企業の事業承継の場合、結構な額に上ることがあるので、事前に確認しておいたほうが良い。一般的には役員退職規定があるので、その内容に準じて支払われるが、社長の場合は「月額報酬×勤続年数×役職係数」という計算式がよく使われる。

 

ここで注意したいのが、この退職金は買収会社が払うのではなく、譲渡会社が支払うという点だ。例えば、規定上の計算では1億円の退職金となっても、譲渡会社に1億円もお金がなければ支払えないため、譲渡スキームに組み込んでおかなければならないのだ。M&Aした譲渡会社のキャッシュが流出するので、事前にその分は計算して譲渡対価に反映させることもある。

 

③社長の待遇

まだ働ける社長の場合は、会社を譲った後も働きたいという気持ちや会社への愛情や未練があるため、退任せずに継続して雇用してほしいという条件が提示されることがある。一般的には代表権のない「会長」または「特別顧問」といった形で継続雇用し、取引関係を円滑に引き継ぐまでのサポートをしておらうのだが、雇用期間は長くても1年程度というケースが多い。

 

一方、スパッと辞めてしまう社長もいるが、中小企業の場合、社長の人脈や人柄で取引が継続している可能性もあるため、社長がいなくなってもしっかり事業が継続できることを確認しておく方が無難。余談だが、私が以前扱った案件では、退職金をもらってすぐに社長を引退し、なんと奥さんとも別居してしまった事例があった。娘婿として社長をやっていたので、会社よりもマスオさんとしての生活から脱出したかったのかもしれない。